2019年に池袋で起きた、旧通産省工業技術院元院長であった高齢者による自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の東京地裁での裁判が終わりました。禁固5年の実刑判決でした。事故発生直後より、たいへんマスコミを騒がせた事件でした。これからまた控訴するかどうかでマスコミの話題になるかと思います。
マスコミかネットかはよくわかりませんが、この高齢者が勾留されなかったことで「上級国民だから逮捕されない」とまことしやかに流されていました。大学のゲスト講師で司法福祉についてお話をしたときも、学生からなぜ逮捕されないのかと質問がありました。「この人は高齢で逃亡、罪証の隠滅の恐れがないので勾留されないのです、こういう場合を在宅事件といいます」とお話をしました。
この事件に前後して高齢者の運転免許についての電話相談をたくさん受けました。運転をされるこうれいしゃのおられるご家族からです。だいたい娘さんかお嫁さんからでした。運転の問題は大変難しく、車はとっても便利なものですし、運転が出来ていたことができなくなることは大変つらい事です。それも、実際は出来るのに、意思でしないのですから、自分を律する必要があります。都市でしたら交通網が発展していますし、駐車場代も高いので手放すことを考えることができるかもしれないですが、地方に行くと難しいことだと思います。ご相談をよせる皆さんは、本当にひやひやして、どうしようかと悩んでおられました。
相談を受けるために警視庁に尋ねたところ、以下のお答えをいただきました。(8項目あり少し長いです。) ①運転免許は高齢者であっても、本人の権利なので、返納はあくまでも本人の意思によるもの、②周囲の人々から、警察や更新センターに、こっそりと更新できないように相談することは出来ない、➂70歳以上の方は、更新する場合は、必ず「高齢者講習」等を受けないと更新できない、④75歳からは、さらに講習を受けるための予備検査(認知機能検査)等を受ける必要がある、⑤高齢者講習には適正診断、夜間視力、胴体視力検査等と実車運転がある、⑥75歳以上は年々ハードルを幾重にもして厳しくしている、⑦講習は更新を妨げるものではないが、検査と講習で引っかかると、つまり認知症と判断されると免許取り消し又は免許停止となる、⑧各警察署の交通課に相談窓口があり、ご家族と一緒に相談に来てください。
返事を聞き、まず、「権利かぁ」と思いました。何事も線引きはできないです。高齢だからできなくする、権利を取り上げるというのは、成年後見制度ではないですが、大変難しい問題だと改めて気づきました。
ちょくちょく出てくる私の両親の話です。実家は商売をしていましたので、両親ともに運転をしていました。しかし、父親は70代後半で大きな交通事故を起こし、ケガは後遺症もなく退院をしましたが、それ以降、亡くなるまで10年近く運転をしませんでした。この事故で、仕事を辞めましたが、普段にも運転をしなかったです。それまではほぼ毎日仕事で車を使っていましたので、父親を乗せると、道が違うとかあっちに行けとか、大変うるさい指示が後部座席から飛んできていました。
母親も毎日のように運転をしていましたが、こちらも、膝の手術をしてから運転をしなくなりました。70代後半でした。母親が手術をするときに、私は障害者手帳の事や、手帳があると車に関しても特典があるようなことを話した覚えがあります。しかし、母親は運転を辞めました。娘の福祉の知識の振りかざしを聞き流してくれました。今から思えば、二人とも運転に固執すること無く辞めてくれてほんとうによかったと思っています。(小林)