長崎刑務所の新しい取り組み

 長崎新聞には障害や高齢などの福祉的支援の必要な受刑者のことや、その問題に関連する記事がたびたび掲載されます。昨年7月には、長崎新聞主催で林検事総長と荒日弁連会長、村木元厚生労働省事務次官を招き、南高愛隣会顧問だった故田島良昭氏との4人のシンポジウムを開催しました。やはり、南高愛隣会が地元にあり、障害や高齢などの福祉的支援の必要な受刑者等についての問題意識が高いのでしょうか。

 その長崎新聞の2021年12月25日号に「知的障害受刑者再犯防止 出所見据えモデル事業 長崎刑務所で50人規模 来年度から5ヵ年計画」という記事がありました。法務省は長崎刑務所に九州・沖縄の刑務所から知的障害(疑い含む)のある受刑者を50人規模で集め、出所後の福祉的支援も見据えた一貫型の処遇をするモデル事業を2022年度に始める方針を明らかにした、というものです。

 以下、長崎新聞の記事を原文のまま掲載します。

  知的障害のある受刑者を巡っては、罪を繰り返す「累犯障害者」の問題が指摘されており、モデル事業は再犯を防ぐ狙い。同刑務所は「軌道に乗せ、一つの支援モデルとなる枠組みをつくるため、職員一丸となって取り組みたい」としている。
 同省矯正局によると、モデル事業は22年度から5カ年を計画。効果を検証し全国展開のあり方を検討していく考え。政府が同日、閣議決定した同年度予算案に関連予算約2千万円を盛り込んだ。
 専門的な知見やノウハウを持つ福祉事業者や自治体と連携し、特性に応じた処遇計画を立て、所内で生活安定に向けた教育・指導や社会復帰を支援。療育手帳の取得を促進し、出所時に「息の長い寄り添い型の福祉サービス」(同局)につなげる体制を構築する。22年4月以降に事業者の選定を進め、同年中の事業の本格実施を目指す。
 同局が20年度に実施した特別調査では、全国の受刑者約4万人のうち知的障害(疑い含む)のある受刑者は1345人。このうち療育手帳を取得しているのは414人だった。
 長崎刑務所は19年4月、高齢や知的障害のある受刑者の特性に応じた処遇を実践し、社会復帰を支援する部門を新設。認知症傾向の高齢受刑者を九州内の刑務所から集めて処遇する取り組みを既に始めており、22年度は35人規模を予定する。知的障害受刑者の再犯防止 出所後見据え、モデル事業 長崎刑務所で50人規模 来年度から5カ年計画 | 長崎新聞 (nordot.app)

 長崎刑務所は、2019年度より高齢受刑者の増加を受け専門部署「社会復帰支援部門」を全国発で立ち上げ、九州の刑務所より対象者の移送を受けているそうで、認知症傾向の高齢受刑者に独自の処遇プログラムを施し、再犯防止を模索しているとのことです。社会復帰支援部門の重視がすすみ、以前は公平性の観点から「集団処遇」として同じ処遇がルールだったのですが、一律に同じ懲役作業をさせても能力等でできないことがあり、個々の特性に応じた「個別処遇」を行うことに意味があるとなったそうです。この取り組みに関しても、長崎新聞で「刑のゆくえ」という連載記事があり、第1部は「老いと懲役」として8回シリーズで取り上げられています。刑のゆくえ | 長崎新聞 (nordot.app)

 法務省矯正局成人矯正課には「社会復帰支援指導プログラム」というものがあります。2017年より全国で取り組まれていますが、その前より、刑務所ごとにユニークな取り組みがなされており、東京社会福祉士会では府中刑務所の取り組みを見学させていただいていました。全国向けに作った「社会復帰支援指導プログラム」はいくつかの刑務所が始めたこともあり、バラバラではなく標準プログラムを作り、全国でとりくみましょうということでした。しかし各刑務所の方が独自の手法を取り入れ、標準プログラムをこえているようです。

 このように長崎刑務所だけでなく、各刑務所で必要に応じて、今までのような一辺倒ではない取り組みが行われています。ちなみに刑法も変わるようで、懲役と禁錮を一本化して「拘禁刑」とする方向だそうです。1907年の刑法制定以来はじめてだそうです。このニュースは、全国紙でも取り上げられていました。