侮辱罪

 2022年度(令和4年)6月13日に、「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)が成立しました。その中に「侮辱罪」の法定刑の引き上げがあり、7月7日から施行されました。今回の改正では、「侮辱罪」の法定刑が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました。

 引上げの必要性は次の二つです。①インターネット上の誹謗中傷が特に社会的問題になっていることを契機として、誹謗中傷全般に対すr非難が高まるとともに、こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民意識が高まっている。②近時の誹謗中傷の実態への対処として、「侮辱罪」の法定刑を引き上げ、厳正に対処すべきとの法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に対して厳正に対処することが必要。

 「侮辱罪」は事実を適示せずに、「公然と人を侮辱した」ことが要件になっています。具体的には、事実を適示せずに、不特定または多数の人が認識できる状態で、他人に対する軽蔑の表示を行うと、「侮辱罪」の要件に当たることになるとあります。

 人の名誉を傷つける行為を処罰する罪としては、「侮辱罪」のほかに、「名誉毀損罪」(刑法230条)があり、この罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことが要件となっています。
 いずれも、人の社会的名誉を保護するものとされていますが、両罪の間には、事実の摘示を伴うか否かという点で差異があり、人の名誉を傷つける程度が異なると考えられることから、法定刑に差が設けられています。「名誉毀損罪」の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」とされる一方、「侮辱罪」の法定刑は「拘留又は科料」とされてきたのです。
 しかし、近年における「侮辱罪」の実情などに鑑みると、事実の摘示を伴うか否かによって、これほど大きな法定刑の差を設けておくことはもはや相当ではありません。
 そこで、「侮辱罪」について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に厳正に対処するため、「名誉毀損罪」に準じた法定刑に引き上げることとされたものです。

 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません。これまで侮辱罪で処罰できなかった行為を処罰できるようになるものではありません。個別具体的な事案における犯罪の成否については、法と証拠に基づき、最終的には裁判所において判断されることとなりますが、「侮辱罪」にいう「侮辱」にどのような行為が当たるかについては、裁判例の積み重ねにより明確になっていると考えているとのことです。

表現の自由は、憲法で保障された極めて重要な権利であり、これを不当に制限することがあってはならないのは当然のことです。
 今回の改正は、次のとおり、表現の自由を不当に侵害するものではありません。
 (1) 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません。
 (2) 法定刑として拘留・科料を残すこととしており、悪質性の低いものを含めて侮辱行為を一律に重く処罰する趣旨でもありません。
 (3) 公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法35条の正当行為に該当するため、処罰はされず、このことは、今回の改正により何ら変わりません。
 (4) 侮辱罪の法定刑の引上げについて議論が行われた法制審議会においても、警察・検察の委員から、
  ○ これまでも、捜査・訴追について、表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり、この点については、今般の法定刑の引上げにより変わることはない、との考え方が示されたところです。(法務省ホームページ法務省:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A (moj.go.jp)よりほぼ引用しました。法務省ホームページにはさらに詳しいQ&Aが掲載されています。)

「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号) では「懲役、禁錮」を「拘禁刑」に改正することもありました。拘禁刑に処せられた者には。改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる、とあります。そもそも、「懲役刑」は刑務作業を行わなくてはならず、それに対して「禁錮刑」収容されるだけで刑務作業を行わなくても良いのが基本でした。

 ただ、刑務作業を行うと作業報奨金がでます。禁錮刑の人が刑務所長に刑務作業を行いたいと請願が申出されれば認められ、刑務作業に勤しむことができ、いったん認められれば正当な理由がなければ辞めることができないのです。結果、多くの禁錮刑受刑者が刑務作業に従事し、現状では実質的に懲役と禁錮が変わらずにいたとの事です。(刑事事件ホームページ弁護士相談広場より)