保護上移送

 収容されている刑事施設が本人の帰住地から遠隔であり、身体または精神に障害がある等の理由で、ほんにんが独力で帰住することが困難であると認められる場合等に釈放前に本人の帰住地の近隣の刑事施設へ移送すること、です。

 帰住地から遠隔の刑事施設であったり、身体または精神に障がいを抱えている場合に、退所前に帰住地の近隣の矯正施設へ移行する ことが出来る制度です。 司法の制度のため、保護観察所、矯正施設へ働きかけを行う必要があります。

 地域生活定着支援センターが動く特別調整の対象者の方の場合、障害や高齢など福祉的支援が必要で、満期釈放となっています。どうしても矯正施設退所時の出迎えが不可欠となります遠方の矯正施設から出所した対象者は、帰住する交通費だけですべての所持金を消費してしまうことがあります。このような場合「所持金0」の状態から支援が開始されます。さらに単身での移動には危険を伴うことも想定されますので、遠方の矯正施設から帰住する場合等は「保護上移送」の対象者として矯正施設に依頼をおこないます。(参考資料:地域生活定着支援センターガイドブック)

保護司の仕事

 保護司について刑事司法に関わっている社会福祉士でも、詳しくは知らない方が多くいらっしゃいます。社会福祉士・精神保健福祉士のカリキュラムに、2007年に「更生保護」が入り、2024年よりは「刑事司法と福祉」が入ります。更生保護で保護司は重要な位置なのですが、意外と皆さんご存じありません。

 意外にも社会福祉士会会員で保護司をしている方は結構おられるようですが、刑事司法ソーシャルワーカー、司法福祉委員会の中には少ないようです。だからでしょうか、更生支援計画書に保護司をつけますとあったり、矯正施設に入っているのに保護司が付いていると考えていたり、時々おやっ?と思うことがあります。「更生保護」を学んでも細かいことはご存じないと思うことが時々あります。

 保護司は、保護司法の規定に基づき、都道府県の区域を分けて定められた保護区のいずれかに所属して、保護区ごとに保護司会を組織するものとされています。これらの保護司会は、都道府県ごと(北海道では保護観察所の管轄区域ごと)に保護司会連合会を組織しています。保護観察所の依頼で担当者を持ち、保護観察等を行います。

保護司の仕事には次の3つがあります。 

1. 保護観察  犯罪や非行をした人たちと定期的に面接を行い、更生を図るための約束事(遵守事項)を守るよう指導するとともに、生活上の助言や就労の手助け等を行います。仮釈放の人や保護観察付執行猶予の人、一部執行猶予の人を、個別に担当して期間満了まで行います。保護観察所から依頼が来て担当します。毎月、報告書を提出します。最近は副担当制があり、2人で担当することもあります。満期釈放者には保護司はつきません。

2. 生活環境の調整 少年院や刑務所に収容されている人が、釈放後にスムーズに社会復帰できるよう、釈放後の帰住予定地の調査、引受人との話合い等を行い、必要な受け入れ態勢を整えます。矯正施設に入った直後より、帰住地調整が始まります。対象者が帰るつもりのところ、引受人を指定すると矯正施設から保護観察所に連絡が行き、その地区の保護司が引受人と指定された人の所に出向きます。

 引受人の多くはご家族ですから、ご家族は保護司が付いたと思われることもあるようです。そうではありません。出所の時まで数回の調整が行われます。矯正施設からの依頼がある、その都度、保護司は訪問し引き受けの意思や生活状況を確認します。1回目は大丈夫でも、その後ダメになることもあります。

 保護観察は仮釈放・一部執行猶予であることが前提です。引受人が断っても、満期釈放になってしまうと好きなところに帰っていいわけです。なお、生活環境調整をしたからその人の担当になるとは限りません。

3. 犯罪予防活動 犯罪や非行を未然に防ぐとともに、罪を犯した人の更生について理解を深めるために、世論の啓発や地域社会の浄化に努めるものです。毎年7月は、”社会を明るくする運動”強調月間として、講演会、シンポジウム、ワークショップ、スポーツ大会等様々な活動が展開されています。中学校や小学校の入学式や卒業式に列席するというのもあるようです。

 保護司になるためには、保護司法に基づき、次の条件を備えていることが必要となります。

  • 人格及び行動について、社会的信望を有すること
  • 職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること
  • 生活が安定していること
  • 健康で活動力を有していること

保護司の委嘱手続は、各都道府県にある保護観察所の長が、候補者を保護司選考会に諮問して、その意見を聴いた後、法務大臣に推薦し、その者のうちから法務大臣が委嘱するという手続によって行われています。保護司の任期は2年ですが、再任は妨げられません。

 多くの保護司さんは地域から推薦されて任命されます。PTA関係の方やお寺・神社の方々、郵便局や役所の方々が多いようです。警察署の少年係の方も保護司として登録されています。更生保護施設の職員も保護司となっています。

 ですが、再犯が多い現在は福祉的支援の必要な対象者が多く、福祉の専門家である社会福祉士・精神保健福祉士が保護司になることはとてももとめられることと考えます。

(参考:全国保護司連盟ホームページ保護司とは|全国保護司連盟 (kouseihogo-net.jp)

 

 

SCA

 3月12日に東京社会福祉士会・司法福祉委員会が公開講座を行いました。本ホームページでもご案内をしていました。テーマを「Change Now! 性依存ー変えられるものは変えていく」として、性犯罪と性依存を取り上げました。

 講師は医療と司法の講義と当事者グループの模擬ミーティングでした。東京社会福祉士会・司法福祉委員会の公開講座では、当事者の講義をお願いしています。今回は性依存がテーマでしたのでお願いできる方がいるかと不安でした。幸い、SCA熊本グループの皆さんがお引き受けくださいました。チェアマンのKENさんが広く知って欲しい、悩んでいる人はグループに繋がって回復の道についてほしいとの思いからです。被害者・加害者を作らないという思い、熱く語ってくださいました。

 SCAとはセクシャル・コンパルシブス・アノニマスの略で、性的強迫症からの回復を望む人々ならだれでも参加できる、12のステップに取り組むあらゆる性的指向の人の共同体です。SCA-JAPAN

 模擬ミーティングには3人の方がご参加くださり、ご自身の体験をお話しくださいました。やはり当事者の方のお話は迫力があります。一人ひとり、経験は違っていますが、治りたいとのおもいで自分を受け入れてミーティングで自分を話す。依存症全体がそうですが、大変な病気です。

 ダルクやマックが始まり、当事者のグループミーティングが知られるようになってきましたが、性依存のグループは、どうもあるようだがわからないと話していたことがあります。しかし、昨今はオープンミーティングまで行うグループがあります。検索すると様々な活動が出てきます。ぜひご参考にしてください。

侮辱罪

 2022年度(令和4年)6月13日に、「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)が成立しました。その中に「侮辱罪」の法定刑の引き上げがあり、7月7日から施行されました。今回の改正では、「侮辱罪」の法定刑が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました。

 引上げの必要性は次の二つです。①インターネット上の誹謗中傷が特に社会的問題になっていることを契機として、誹謗中傷全般に対すr非難が高まるとともに、こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民意識が高まっている。②近時の誹謗中傷の実態への対処として、「侮辱罪」の法定刑を引き上げ、厳正に対処すべきとの法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に対して厳正に対処することが必要。

 「侮辱罪」は事実を適示せずに、「公然と人を侮辱した」ことが要件になっています。具体的には、事実を適示せずに、不特定または多数の人が認識できる状態で、他人に対する軽蔑の表示を行うと、「侮辱罪」の要件に当たることになるとあります。

 人の名誉を傷つける行為を処罰する罪としては、「侮辱罪」のほかに、「名誉毀損罪」(刑法230条)があり、この罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことが要件となっています。
 いずれも、人の社会的名誉を保護するものとされていますが、両罪の間には、事実の摘示を伴うか否かという点で差異があり、人の名誉を傷つける程度が異なると考えられることから、法定刑に差が設けられています。「名誉毀損罪」の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」とされる一方、「侮辱罪」の法定刑は「拘留又は科料」とされてきたのです。
 しかし、近年における「侮辱罪」の実情などに鑑みると、事実の摘示を伴うか否かによって、これほど大きな法定刑の差を設けておくことはもはや相当ではありません。
 そこで、「侮辱罪」について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に厳正に対処するため、「名誉毀損罪」に準じた法定刑に引き上げることとされたものです。

 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません。これまで侮辱罪で処罰できなかった行為を処罰できるようになるものではありません。個別具体的な事案における犯罪の成否については、法と証拠に基づき、最終的には裁判所において判断されることとなりますが、「侮辱罪」にいう「侮辱」にどのような行為が当たるかについては、裁判例の積み重ねにより明確になっていると考えているとのことです。

表現の自由は、憲法で保障された極めて重要な権利であり、これを不当に制限することがあってはならないのは当然のことです。
 今回の改正は、次のとおり、表現の自由を不当に侵害するものではありません。
 (1) 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません。
 (2) 法定刑として拘留・科料を残すこととしており、悪質性の低いものを含めて侮辱行為を一律に重く処罰する趣旨でもありません。
 (3) 公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法35条の正当行為に該当するため、処罰はされず、このことは、今回の改正により何ら変わりません。
 (4) 侮辱罪の法定刑の引上げについて議論が行われた法制審議会においても、警察・検察の委員から、
  ○ これまでも、捜査・訴追について、表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり、この点については、今般の法定刑の引上げにより変わることはない、との考え方が示されたところです。(法務省ホームページ法務省:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A (moj.go.jp)よりほぼ引用しました。法務省ホームページにはさらに詳しいQ&Aが掲載されています。)

「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号) では「懲役、禁錮」を「拘禁刑」に改正することもありました。拘禁刑に処せられた者には。改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる、とあります。そもそも、「懲役刑」は刑務作業を行わなくてはならず、それに対して「禁錮刑」収容されるだけで刑務作業を行わなくても良いのが基本でした。

 ただ、刑務作業を行うと作業報奨金がでます。禁錮刑の人が刑務所長に刑務作業を行いたいと請願が申出されれば認められ、刑務作業に勤しむことができ、いったん認められれば正当な理由がなければ辞めることができないのです。結果、多くの禁錮刑受刑者が刑務作業に従事し、現状では実質的に懲役と禁錮が変わらずにいたとの事です。(刑事事件ホームページ弁護士相談広場より)

親族相盗例

 親族間の犯罪にある特例で、親子、兄弟姉妹で、窃盗や詐欺、横領等の 6つの罪と未遂罪は刑が免除されというも のです。傷害罪や殺人罪など、家族内で解決すべき問題ではない、親族であっても刑を免除すべきではないものには特例は当たりません。

 刑法第二百五十七条 (親族等の間の犯罪に関する特例)配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。 前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 この場合の親族は、配偶者(内縁関係は含まない)、直系親族(祖父母-父母-子-孫と言った楯の血族。兄弟や従妹は含まない)、同居の親族(一時的な宿泊は含まない。直系血族を除く6親等内の血族および3親等内の姻族)と若干複雑ですが、親の財布からお金を無断で持ち出す、一緒に住む兄弟から借りた本や洋服を売っちゃったというものを処罰しないというものです。「法は家庭に入らず」という考えから出てきているそうで、金額の多寡は関係ないようです。親族間で財産に関する犯罪が行われた場合には、親族間で話合いをすることによって解決した方が妥当であることが多いから、ともいえます。

 警察に家族の困りごととして相談しても「親族相盗例」と返されることもあるようです。それでも、問題が大きい場合は、被害者として刑事告訴をするのがよいようです。(刑事告訴には、6か月の期間制限があるものが多いそうです) 

 例えば息子が親に対して詐欺行為を行った場合、友人が共犯者であれば、息子が罪に問われなくとも友人は詐欺罪に問われます。兄弟姉妹間でも同居している場合としていない場合では異なってきます。親族であっても許せないことは許せませんし、許さない方がいいこともあります。息子の行為が目に余る状況であれば告訴をして、その行為は社会的問題であることを、息子に知らせることも必要かもしれません。

 

 

 

控訴審

刑事司法ソーシャルワーカーの活動で、控訴審のご依頼がときどきあります。

「控訴」とは地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所がした第一審の判決に不服があるとして、高等裁判所に申し立てることです。

同じ「こうそ」には「公訴」もあります。「公訴」とは、検察官が、管轄裁判所に起訴状を提出して、被告事件の審判を請求することです。裁判で検事が「公訴事実」を読み上げますが、「公訴事実」とは起訴状に訴因の形で記載される犯罪事実のことです。

さて「控訴」ですが、裁判長が裁判の終わりに必ず被告人に対し、「判決内容に不服がある場合は、判決が言い渡された日から14日以内に申し立てができます」というあれです。不服がある場合は、第一審が行われた地方裁判所・簡易裁判所に「控訴申立書」を提出します。その後、「控訴趣意書」の提出がもとめられ、決められた期限内に、次に控訴審が行われることになる裁判所へ提出します。「控訴審」は高等裁判所、最高裁判所で行われる裁判です。一審の裁判所( 地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所)がした判決に対して行う裁判です。地方裁判所は各県にありますが、 高等裁判所は全国に八か所ですから、たとえば新潟地方裁判所で控訴すると東京高等裁判所、水戸地方裁判所も東京高等裁判所、東京地方裁判所も東京高等裁判所での控訴審となります。ちなみに裁判所のホームページに各地の裁判所と管轄地が出ています。裁判所 – Courts in Japan とてもいろいろな情報が掲載されています)

刑事司法ソーシャルワーカーの活動で行われる控訴審でも、障害や高齢、疾患等で犯罪になってしまった事件で、福祉的支援が必要なものがよせられます。第一審で 障害や高齢、疾患等 を検討されることがなく有罪判決になったものがほとんどです。控訴しようとご本人が不服に思ったか、また他の誰か考えてご本人とそういう話になったかは不明ですが、控訴はよくあることのようです。国選も私選もあります。

日本では公平な裁判のために三審制が採用されています。三審制とは当事者が希望すれば原則三回まで審理を受けることができるというものです。刑事事件において、第一審は地方裁判所又は簡易裁判所。控訴して第二審は高等裁判所。次は上告(控訴ではない)して最高裁判所となります。少年事件は家庭裁判所の出した保護処分決定に不服申し立てとして高等裁判所に「抗告」することができますが控訴とは異なる制度だそうです。

「上告」は、高等裁判所の判決に対して不服として行うものですが、原則として第二審の判決に憲法違反または判例違反があった場合に限られているそうで、控訴よりも上告が認められる可能性は低いとのことです。「控訴」と「上告」を「上訴」といいます。

暮らしのルールブック

2011年に初版が出た本で、「暮らしのルールブックー楽しく生きていくために守ること」という本があります。長崎にある知的障害者の支援をしている「社会福祉法人南高愛隣会」と、元厚生労働事務次官の村木厚子さんが立ち上げた「共生社会を創る愛の基金」が共同編集で出版したものです。

46ページ、B5版の薄い本です。イラストで描かれたフルカラーの書籍です。内容は、まさに暮らしのルールについて書かれています。

第1章は「してはいけないこと」です。「物を盗んではいけません」ーお店のものを盗る(万引き)、他の人の家に入ってお金や物を取る(空き巣)から、「家族のお金を取る」「会社のものを持って帰る」、「ごみ置き場のもの」「賽銭」は取ってはいけません、とあります。「他の人の携帯電話やスマホを使う」も、してはいけないです。誰かが物をとるときに一緒にいるのも、同じ悪いこと(共犯者)です、と書いてあります。続いて、「だまって入ってはいけません」「暴力をふるってはいけません」「人をだましてはいけません」と続き、「してはいけないこと」に9項目あります。

第2章は「気を付けたいこと」、第3章は「悪いこと(犯罪)をしたら・・・、となっています。第3章には、警察に声をかけられたら、「逃げてはいけません」、「抵抗してはいけません」も書いてあります。

刑事司法に絡むご相談を受けると、このような「やっちゃいけないこと」を知らない人々ー軽度の知的障害の方や発達障害の方が起こした犯罪が多々あります。自然獲得するような事柄、常識と考えられる事柄でも、案外抜けていたりするようです。どうしてこのようなことになっているのだろうと考えた時に、このような社会のルールを知らないままにいるのではないか、また、口ではいけないと答えても、どうしていけないのかよくわからずに行動していることもあるかもしれません。特に少年事件の場合は、その基本を確認するのもいいかもしれません。

1冊250円です。ご注文は南高愛隣会ホームページ:http//www.airinkai.or.jp/chiiki まで。

累犯

 以前に犯罪を犯した人が再び犯罪を犯した場合をいいます。(刑法56~59条)「累犯の3要件」というものがあり、①以前に懲役の実刑判決を受け刑務所に入っていたこと、②刑期を終えた日から5年以内に新たに罪を犯したこと、➂新たな罪の判決が有期の懲役刑であること、となっています。

 福祉的支援が必要な人の犯罪で、たびたび聞く言葉が「常習累犯窃盗」です。これは窃盗罪・窃盗未遂罪に当たる行為を常習的にする罪です。過去10年間に3回以上これらの罪で、6か月以上の懲役刑を受けた人が、新たに同じ罪-窃盗(含む未遂)を犯すと 「常習累犯窃盗」 となり、懲役3年から20年と通常の刑よりは重くなってしまいます。刑務所から出所して(刑期が終わって5年以内)すぐの再犯で、再び懲役刑判決になる場合は、執行猶予が付くことはできないとなっています。

 常習累犯窃盗になる方は、1.生活に困っている人- 仕事がない、周囲のサポートもなくその日暮らしになってしまっている、2. 窃盗症、クレプトマニア他の精神疾患でコントロールがきかなくなっている、3. 認知症や知的障害があり、行動の見守りが困難な場合、等々があります。

 刑事司法ソーシャルワーク活動では、その人のアセスメントをして更生支援計画書をつくるのですが、認知症が見過ごされていたり、窃盗症の治療がされていなかったりと、アセスメントの過程でその犯罪のいろいろな背景が見えてきます。保釈中に、専門医療機関で受診しMRIで特殊な脳梗塞が発見されたケースや、いわゆる認認介護状態であったことがわかり生活状況が整理されたケースなどがあり、累犯を免れ再度の執行猶予になったこともあります。

 犯罪はその人の氷山の一角で、その下に何があるかをよく理解し、解決していかないと累犯を防ぐことができないと思われます。

引致ーいんち

 刑事司法ソーシャルワーカーの活動で、実刑後に仮釈放になり福祉的支援をしていたり、保釈中に支援をしているときに対象者が「引致」され、どこに行ったか連絡がつかなくことがあります。「引致」とは何でしょう。

 「引致」とは、逮捕状・勾引状などにより被告人・被疑者・証人などを強制的に官公署その他の場所に連行することです。(刑事訴訟法73・202・215)

 ですので、「警察官に逮捕され警察署に引致され、取調室でとりしらべが行われ、その後「48時間以内」に検察官に送致するかどうか検討される。」となります。なお、検討の結果、検察官に送致されず、釈放となることもあります。

 保護観察所でも「引致」が時々あります。例えば仮釈放中の保護観察対象者が、遵守事項を遵守できていないと疑われるに足る十分な理由がある場合等に、仮釈放の取り消し申し出等を前提に、必要な調査をするため引致することがあります。つまり、保護観察対象者(仮釈放者、保護観察付執行猶予者)に遵守事項違反又は再犯等があった場合に不良措置として、仮釈放者に対する仮釈放の取消し及び保護観察付執行猶予者に対する刑の執行猶予の言渡しの取消しがありますが、まず、事情を聴取するために保護観察所等へ引致して取り調べるということです。

 保護観察対象者に遵守事項違反等の疑いがあるときは,保護観察所の長は,保護観察対象者からの事情聴取を含む調査を行いますが、保護観察対象者が出頭の命令にも応じない場合等には,保護観察所の長は、裁判官が発する引致状により引致することができるとあります。さらに、保護観察所の長又は地方更生保護委員会は、不良措置の審理を開始するときは、一定の期間、引致された者を留置することもできます。

 また、所在不明になった仮釈放者については保護観察を停止することができますが、18年5月から、所在不明となった仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の所在を迅速に発見するために、保護観察所の長は、警察からその所在に関する情報の提供を受けています。仮釈放中の対象者が再犯をして逮捕され、保護観察所に引致され、拘置所に行くということもあるようです。

 「引致」という言葉だけでは必ずしも再犯とは限らないかもしれませんが、引致状によって引致され、取り調べを受ける状態になったということではあります。

参考:犯罪白書令和2年版、社会福祉法人南高愛隣会「こんなときどうする?福祉的支援を要する人が被疑者・被告人になったら」

勾留と拘留

 「勾留」と「拘留」は読み方はどちらも「こうりゅう」ですが、どのように違うのでしょう。

勾留」は被疑者または被告人の、逃亡または罪証の隠滅を防ぐために、この人を拘束する裁判、およびこの裁判によって被疑者、被告人を拘束することです。未決勾留とも言います。

 検察官から裁判官に対し、逮捕されている被疑者の勾留を求めることを「勾留請求」といいます。検察官は、逮捕状で被疑者を逮捕した場合、または逮捕状で逮捕された被疑者を受け取った場合、留置の必要がないと考えた場合は直ちに釈放しますが、留置の必要があると考える場合は、公訴の提起をしない限り、被疑者が身体の拘束を受けた時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求します。(刑事訴訟法204Ⅰ)また、司法警察員から逮捕された被疑者の送致を受けた場合、留置の必要があると考えるときは、公訴の提起をしない限り、被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求します。(刑事訴訟法205Ⅰ)

 検察官から勾留の請求を受けた裁判官は、被疑者に対して被疑事実を告げて、これに関する陳述を聞いた後でなければ勾留することができないとされていて、これを「勾留質問(尋問)」といいます。

拘留」はすでに刑になっています。「自由刑」の一つで、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑のことです。刑務作業に従事することを願い出て許されたときは就業します。

「自由刑」は自由のはく奪を内容とする刑罰です。懲役・禁錮(禁固は単に閉じ込めるという意味です。刑罰はこの文字です)・拘留を包括していいます。

「勾留」と「拘留」、内容をよく理解し文字を間違えないようにしましょう。